キミはまぼろしの婚約者
「あんなに突き放したのにまだ俺に構うなんて、小夜ちゃんってM?」


意地悪な笑みを浮かべて言われ、私はかぁっと顔を熱くする。


「なっ! ちがっ……や、違わない気もするけど!」

「ははっ、正直」


おかしそうに笑う律。

だって、私絶対Sではないし。ていうか、そんなことより……

今日の律は、この間みたいな冷たさや暗さを感じなくて、少しホッとした。


「で、何? 用件は」


壁に背中から寄り掛かる律は、ニュートラルに戻った表情で聞いてきた。

本題を思い出した私は少しの緊張感が舞い戻ってきて、一呼吸置いてから口を開く。


「今度、一緒に行きたいところがあるの。……付き合ってくれないかな?」


上目遣いで見上げると、彼は目を伏せて困ったような苦笑を漏らす。


「……ほんと、こりないね君は」


ボソッと呟かれたそれは、悪意があるようには聞こえないけど、さっきの女子達に言われたものと同じで、ちくりと胸に刺さる。

でも、めげないんだから。


「俺、約束いっぱいあるからさ。悪いけど」


律は軽い調子で言い、上辺らしき笑みを貼り付けて、壁から背中を離す。

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