社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~

「だから、お前の異動の話がきたときに俺はチャンスだと思った。もちろん河原にとっても仕事の幅が広がるっていうのもあった。だけど、もっと個人的な理由でお前の異動を歓迎したんだ。だから俺の希望だと答えた。——今日まで、お前が部下じゃなくなるのを待ってた」

さっきまで私を見つめていたのに、今はそっと目をそらされている。

「どうして、ちゃんと話をしてくれなかったんですか? 言ってくれたら私ちゃんと待てました」

「そこは……悪かった。けど、お前のことはきちんとしたかったんだ。ちゃんとケジメをつけて俺のものにしたかった。許してくれ」

なんて不器用な人なんだろう。仕事ができて厳しくてまっすぐで。目の前にいる人が無性に愛おしくなってしまう。

「……こっち見ないでくれ。顔が赤い」

本当に不器用な人。

「嫌です。私のことちゃんと見て下さい」

ゆっくりとこちらを向いた衣川課長は本人の言う通り、薄明りでもわかるくらいほんのり赤かった。

「ちゃんと、もう一回好きって言ってください」

お互いの視線が絡む。お互いの視線の温度がどんどん上がっていく。胸が甘く騒めいてとまらない。

衣川課長の長い指が私の髪を耳にかけた。

触れられたところが、熱を帯びる。

「好きだ。俺だけのものになってくれ」

綺麗にととのった、いつもはクールな衣川課長の熱い瞳が近づく。

「はい。よろしくお願いします」

笑顔を見せた私に、最近見ることのなかったあの柔らかい笑顔を返してくれた。

彼が目を閉じたのと同時に、私もゆっくりと目を閉じた。

柔らかい唇が私に触れた。前触れのように軽く触れただけのキスでドキンと胸が音を立てる。そしてすぐに二度目のキス。
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