社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~

しかもそれを言いだせずに、ずっとブラックコーヒーを提供されていたのだと思うとおかしい。

声こそ出さなかったものの、急に笑い始めた私を一緒に片付けしていた女子社員たちが不思議そうに見ている。

「あ、なんでもないです。こっち、私が片付けますね」

これだけのことなのに、衣川課長のことが一気に身近に感じられるようになった。その日の会議の片付けはどうしてだかいつも以上に捗った。

 
会議室の片付けが終わると、業務の終了時間があっという間にきた。急ぎの仕事は終わらせていたので、明日やらなければいけないことを整理するとパソコンの電源を落とした。

「ただいまー! あれ、衣川課長は?」

外回りから帰って来た成瀬さんが、キョロキョロと周りを見渡している。

「あれ? さっきまではいらっしゃったんですけど。探してきましょうか?」

「いや、別に急ぎじゃないし。あの人がこんな時間に帰るなんてことはありえないだろうから待っとく。まだやること山のようにあるし」

自らのデスクの資料の山を指差して、苦笑いしている。

「なにかお手伝いしましょうか?」

「いや、もう終業時間過ぎてるだろ? 帰ってデートでもしなよ。あっ、相手がいないなら俺が付き合ってもいいけど」

「いいえ、間に合ってます」

「えー! ちょっとは悩む素振りくらいみせてよ」

いつもこうやって冗談めかしにからかってくる。あしらいはこの三年で慣れた。
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