社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~

「乾杯」

そう言われて一気に煽る。ちびちびいくと苦いのでさっさと飲み干してしまおう。

「ちょっと、朔ちゃん大丈夫?」

隣で汐里さんが心配そうに小声で聞いてくる。

「大丈夫です」

本当はもう限界だけど。

それを見ていた他の社員が話に割って入る。

「河原さんってお酒飲めないんだと思ってた」

「今まで隠してたの?」

「いえ、決してそういうわけじゃ……」

「ほら、せっかくだからもっと飲もう」

ビール瓶を差し出されて、空のグラスを持つ手をどうしようか迷う。

やっぱり飲めません! なんて言えない。

思い切って差し出したグラスを、横から来た手が奪う。

「もう、やめておけ」

「き、衣川課長……!」

たしなめるような口調だったけれど、眉間に皺を寄せた姿を見て、それまで私にお酒をすすめていた人がさっといなくなる。

「あ、あの……ありがとうございます」

「成瀬、そんなに酒が飲みたいなら俺がつきあってやるから来い」

「い、いや……あの、俺はそんなつもりじゃ」

首根っこ掴まれた成瀬さんが、ズルズルと衣川課長に引きずれて行く。結局成瀬さんは深沢部長と、衣川課長、そして佐山課長の第一営業部のトップスリーとお酒を飲むことになったみたいだ。

「あーあ。ちょっと可哀想。だって部長と、衣川課長はまだしも……佐山課長って酔っ払うとすぐ説教臭くなるし、絡んでくるよね」

隣の汐里さんの言うとおりで、すでに成瀬さんは佐山課長の横で正座で話を聞いている。
< 27 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop