社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
「あ、成瀬さん。お疲れ様です。課長ですか? え〜っと……」
電話をしながら奥の席に座る、第一営業課の衣川要(きぬがわかなめ)課長を目だけで確認する。
ちょうど電話が終わったみたいだ。私の視線に気がついてくれたみたいで、さっと片手をあげで受話器に手を置いている。
「今、回しますね。少し待ってください」
成瀬さんに断り、衣川課長に声を掛けた。
「衣川課長、成瀬さんからお電話です」
「ん」
小さく返事があって、ボタンを操作して衣川課長へと電話を回した。課長が受話器をとって話し始めたのを確認して、すぐに目の前のパソコンに向き合った。
こっちは……これでよしっと。
「よくやったな」
あっ……。
電話を受けながら、衣川課長がふわりと柔らかい笑顔を見せた。
な、なに? その笑顔は反則じゃないの?
ドキンと仕事中にあるまじき胸の高鳴りを感じてしまう。
ひとりチラチラと上司の顔を盗み見る。うっかり見とれていたことに気がついて慌ててパソコンの画面に向き合った。
私の上司である衣川課長は、三十二歳という若さにもかかわらず課長職についているエリートだ。
今までその歳で課長になったのは、現在の営業統括部長である、深沢(ふかさわ)部長だけだが、部長は現・社長の息子であり、いわば御曹司。それを除けば衣川課長が誰よりも早く出世したことになる。
確かに仕事が出来る。しかし自分にも他人にも厳しくいつも眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。それがトレードマークだった。