社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~

タクシーと聞いて自分の財布の中身を瞬時に思い出す。昨日仕事帰りにカーディガンを買ってしまい、昼休みに銀行にもいけず財布の中身は金曜だというのに寂しいままだ。

「私は、バスがまだあるので、バスで帰ります。失礼します」

駅前に向かおうとした私の手を、衣川課長の大きな手が掴んだ。

「馬鹿言うな。そんなに酔ったままバスに乗って気分でも悪くなったらどうするんだ。送ってやるからタクシーで帰るんだ」

「はい」

「よし。行くぞ」

仕事のときのように思わず返事をしてしまう。いや、本当は仕事みたいだなんて思ってない。

いつもよりも距離が近い。

衣川課長に繋がれた手が、なんだかすごく安心できたから。離したくないな……なんて思ってしまった。

——酔っている。本当に私、酔っ払って色々考えられなくなっちゃっているんだ。

難しいことは考えずに、全部お酒のせいにしてしまおう。だから、今は心の思った通りに頭で考えないでいよう。

繋がれたままの手がすごく熱い。衣川課長から感じる体温が私の体を駆け巡るみたいだ。

すぐに流していたタクシーを捕まえると、私を先に乗せ継いで衣川課長が乗り込んだ。

手……離れちゃったな。さっきまで繋がれていた手をなに気なく見る。

「……はら、河原、どうした気分でも悪いのか?」

「いえ、大丈夫です」

バックミラー越しにタクシーの運転手さんが心配そうな顔で見る。酔っぱらいを乗せて車内を汚されでもしたら困るからだろう。

「自宅の住所は? 教えてくれないと車が出せない」

「すみません」

私が住所を告げると車はすぐに走りだした。
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