社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
「気分はどうだ?」
「あの……思ったよりも平気です」
気分は悪くない。それよりも衣川課長とふたりでタクシーに乗っていることのほうが体に影響を及ぼしているような気がする。
「本当に、二次会行かなくてよかったんですか?」
「あぁ。俺がいないほうが盛り上がるだろう」
ネクタイを緩めながら、ふぅっと溜息をついた。
「そうでしょうか?」
「そういうもんだ。上司は金だけ出していないのがベスト……それに」
私の方を見てかすかに笑った。
「ふらふらになった部下を送っていかないといけないしな」
「すみません」
表情から怒っていないことは分かったが、それでも面倒をかけてしまっていることにかわりはない。
「気にするな。お前の世話は嫌いじゃない」
それってどういうことだろう。腕組みをしたまま窓の外へと視線を移した衣川課長の表情を読み取ることが出来
ない。横顔しか見えないけれどじっと見つめてしまう。
どういう意味だろう。自分にいいように解釈してしまいそうになるのを慌てて蹴散らす。
「お客さん、このあたりですか?」
運転手さんに声をかけられて、ハッと外を見る。自宅近くの坂の下まできていた。
「あ、はい。ここで大丈夫です」
「駄目だ。ちゃんと家の前まで送らないと、なにかあったら困るだろう」
「でもすぐそこですから。家の前まで来てもらうと大きな道に出るまで遠回りになります」
本当に目と鼻の先なのだ。それなのにわざわざ送ってもらわなくてもいい。
「駄目だ。どの家だ。ちゃんと説明して」
「はい」
結局押し切られて、タクシーで家の真ん前まで送ってもらった。