社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
「ありがとうございます。わざわざ送っていただいて……」
タクシーから降りながら、衣川課長にお礼を告げていると背後から声が聞こえた。
「朔乃? 帰ったのね。そちらはどなた?」
振り向かなくてもわかる。母の声だ。
「あーえっと。上司の衣川課長。ちょっと飲み過ぎたので送ってもらったの」
「上司! まぁまぁよくぞまぁこんなところまで。あなた、朔乃の上司の方ですって」
母の背後から、チョコを連れた父も顔を出した。
「これはこれは、いつも朔乃がお世話になっています」
「ちょっと、もういいから」
あまりにも両親の衣川課長に興味津々な様子にあわてて間に入った。衣川課長だってもう帰りたいはずだ。こんなところで時間を費やしたくないだろう。
しかし、気配を感じて振り向くと衣川課長がタクシーから降りて来た。
え? どうして。
さっき緩めたはずのネクタイがキチンといつもの位置に戻っている。
「か、課長。わざわざいいですから」
「いや、ちゃんとご挨拶させてもらわないと。娘さんをこんな時間まですみませんでした」
「いえ、いえ。うちの娘なんか……」
なんか……ってちょっとひどくない。でもそれもしかたないか。