社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
「課長さんったら、すごくイケメンですねっ!」
「お、お母さん。もうやめてよ」
恥ずかしさで脇に変な汗をかいた。
「なにいってんの? 母さん芸能人かと思ったわ〜どうして今まで隠してたのよ」
「隠してたわけじゃなくて、もうイイでしょう、ね?」
母の思ったことをなんでも口にする性格を今更ながら恨む。
「でも、たしかに母さんの言うとおりだな。ほら、足の長さなんて父さんと比べたらなぁ」
隣に立って足の長さを比べようとしている父を見て頭を抱える。
どうして、そうなっちゃうの?
「もう、お父さんも、お母さんもやめ、え? チョコ! ダメ———!」
父が握っていたリードの先には落ち着きのないチョコの姿があった。
それって、その動きって!
急いでリードをひっぱったけれど、時すでに遅し。
衣川課長の高そうなピンストライプのグレーのスーツには、チョコの粗相の後がはっきりと残っていた。
「まぁ! どうしましょう」
どうしましょうって、本当にどうしたらいいんだろう。
頭をフル回転させるが、空回りに終わる。
ここまで送ってもらうのも十分迷惑をかけた。それなのに、それなのに……。
さっきまで感じていたアルコールにより気だるさなんて、とっくにどこかに飛んでいってしまう。
恐る恐る衣川課長の顔を見る。目を見開いたまま固まっているその表情を見て一瞬にして血の気が引いた。
そんな表情をこれまで一緒に仕事をしてきて一度も見たことない。エマージェンシーコールが脳内に鳴り響く。
「す、すみません。申し訳ありません。ごめんなさい」
ありとあらゆる謝罪の言葉を並べてみたけれど、ちゃんと届いただろうか。
「大丈夫ですから、気になさらずに」
冷静な声でいつもの様子に戻った。しかし「はいそうですか」では済まない。