社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
「す、すみません! 決してその……覗くつもりじゃ」
「あぁ、わかってる」
「見てません、全然……っていうか。ほんの少しっていうか、いや……結構見たかも……」
言い訳している間に耳まで赤くなってしまう。これ以上赤くできないというほど熱をもった耳がじんじんする。
「……くっ……あはははは」
恐る恐る振り向くと、そこにお腹を抱えて笑う衣川課長の姿があった。いつも冷静で表情の読めない上司が、大きな口を開けておもいっきり笑っている姿に、そちらを見ないように気をつけていた事も忘れて釘付けになってしまう。
その屈託のない表情が、私の胸をぐっと揺さぶる。今まで感じたことのないその感覚にドキドキと心臓が音を立て始めた。
「そんなに、気にしないでいい。別に男だから見られたところで、どうってことないから」
「そ、そうですか?」
やっと笑い終わった衣川課長が、笑みの残った優しい表情で話す。
「あぁ。今から下も脱ぐから見ていくか?」
「え、あ、ハイ。いや、ハイじゃなくて!」
「あははは……悪い。お前の反応が面白くてからっただけだ。でも、そろそろ本当に脱ぐから扉を閉めてくれると嬉しいんだけど」
「すみません! 狭いですけど、ゆっくりしてくださいね」
慌てた私が、バタンと大きな音を立てて扉を閉めると、また中から笑い声が聞こえてきた。
あんなに声をあげて笑うんだ……。いや、衣川課長だって普通の人なんだからそれが当たり前なんだけど、普段自分の感情を表に出さない人だったから驚いてしまった。
でもいいな……なんか、とってもいい。
すでに酔いは醒めているはずなのに、どうしてだが体も心もふわふわしたままリビングへと戻った。