社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
悪いのはこちらだとわかっていて、両親のやろうとしていることが娘の上司に対しての最大限の気遣いだということもわかる。けれど、衣川課長がここでお酒を飲むとなると落ち着かないのだ。
「シャワーありがとうございました」
リビングのドアを開けて入ってきた衣川課長の姿を見て、少し笑いそうになる。
明らかに身長の違う父のスエットを身に着けているので、袖も足もつんつるてんだった。いつもはビシっとシワひとつないスーツを身に着けている衣川課長とのギャップが激しすぎだ。
「今、笑った?」
「いえ……はい」
日頃から素直に返事をするように躾けられて(?)いるせいで、素直に返事をしてしまう。
「あら、課長さん。お戻りでしたか? こちらにどうぞ」
「あの……いえ、私はもう」
「ダメです! ご迷惑をかけた上に、なにもしないで帰すわけには行きません」
「お母さん! 衣川課長にも予定が」
「この大吟醸って、九州のですか?」
それまで、引いていた衣川課長がテーブルに置いてあった日本酒に手を伸ばす。
「あら、どうなのかしら、お父さん! このお酒ってどこの?」
「えー? 九州のだよ」
シミ抜きを終えた父が戻ってきた。