社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
「もしかして、課長さんもこれお好きなんですか?」
「あぁ。はい、実家が九州なので。でもこれは地元でもなかなか手に入らないものですよ」
「さすがお目が高い。せっかくなんで、一緒に飲んでください。妻も娘も日本酒はまったくなんで、一緒に飲んで貰えると嬉しいんですが」
「喜んで」
つい先程まで帰ろうとしていたのに、勧められていた席に座っている。
あっけに取られてことの成り行きをみていた私に、父が座るように言ったのは衣川課長の隣の席だった。
「これは冷(ひや)で飲むのが旨いんですよ」
「では、お言葉に甘えて」
お客様用の江戸切子のグラスを衣川課長が持つと、父がすぐにお酌をした。
自分のにも注ぐとそのまま、グラスを合わせて一口飲む。
男らしい喉仏が上下したあと、口角がぐっと上がる。
「旨いですね」
「そうでしょう、そうでしょう。ひとりで飲むにはもったいない酒なんです」
母も私もあまりお酒を飲まないので、こんなに嬉しそうにお酒を飲んでいる父を見るの初めてかも知れない。
「残り物で申し訳ないんですけど。食べてくださいね」
鮭の南蛮漬けや、マカロニサラダ、自慢のぬか漬けなど本当に統一感のないつまみが並ぶ。しかし、どれも衣川課長は美味しそうに食べている。