社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~

だからこそ、今のこの一瞬の笑顔に私はみとれてしまう。きっと社内でも気がついている人がほとんどいない、衣川課長の優しい笑顔に。

もう一回だけ、そう思って視線を向けるとバッチリと目が合った。

わっ……もしかして、見ていたのバレたかな?

すぐに視線を反らせたのが、余計にわざとらしい。私はなんとかごまかすようにパソコンの画面に集中しているふりをした。

「河原」

「はいっ!」

急に呼ばれて、ビクッと反応してしまい、自分でも思っていないほど大きな声が出た。おそるおそる衣川課長を見ると、いつもの表情に戻っていて感情が読み取れない。

「久川(ひさかわ)商事の契約取れたみたいだ。成瀬から話を聞いて、すぐに工場に出荷指示掛けてくれるか?」

「はい。わかりました」

よかった。盗み見していたの、バレていないみたい。

普段はとっつきにくいし、指摘もするどい。だから初めてこの笑顔に気がついたときには心底驚いたものだ。

仕事中に上司に見とれていたことがバレずに済んだ私は、すぐに電話に出て契約の取れた大口契約の処理作業へと移った。

電話を終えてデータをもう一度チェックする。ふと、気になるところが出てきて成瀬さんに電話したけれど、運転中なのか留守電になる。

困ったなぁ……急ぎの受注だって言ってたのに、ちゃんと最後まで確認しておけばよかった。

「どうかしたのか?」

不安が顔に出ていたのだろうか。衣川課長から声がかかる。

私はすぐに席を立って、資料を持ち課長の席へと向かった。
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