社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~

「お酒も、つまみもおいしいです」

「よかった。さぁさ、もっと召し上がってください」

隣に座った私は、なんだか不思議な気持ちでこの状況を見守っていた。

本当にどうしてこんなことになっちゃったんだろう。

この状況を作りだした張本人のチョコは、自分の寝床に戻りすでにぐっすりと眠っていた。

「河原も少しくらい呑んだらどうだ?」

「あ……でもあんまり呑んだことないんです」

「そうだ、朔乃も少しくらい飲みなさい。社会人なんだから、勧められるときもあるだろう? 少しくらい免疫があるほうがいい」

そう言われて、衣川課長が私にグラスを差し出した。

「じゃあ、少しだけ」

差し出したグラスに、父がお酒を注いでくれる。

ふたりの視線を感じながら一口飲むと、喉の奥がカッと燃えるように熱い。

「わぁ、すごっ」

「まだ朔乃に早いか」

父と一緒に衣川課長まで笑う。会社の飲み会の席では、仕事中とほとんど変わらない感じなのに、今日は飲み会が終わったあとウチで呑みなおしているせいかいつもよりも、お酒を楽しんでいるように見えた。

父が準備したお酒が、衣川課長の好みに合っていてよかった。

「勧めてから聞くのもあれだが……気分悪くないか?」

心配そうな表情で衣川課長にが私に尋ねた。

「はい、意外と平気です」

ちびちび飲みながら、父と衣川課長の日本酒談義を聞いていると、不意に眠気が襲ってくる。

あ、駄目だ。せめて衣川課長が帰るまでは起きていないと。

しかし、一週間みっちり働いて飲み会でよっぱらい、自宅で日本酒を飲んだ体は眠い眠いといっている。

だんだんと閉じていく瞼が、最後まで見ていたのは柔らかい笑みを浮かべた衣川課長の横顔だった。
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