社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
しかしのんびりそんな風に考えていた私の考えが甘かったのだと、すぐに痛感することになった。
「お母さん、昨日、私……えっ」
シャワーを終えて、部屋着のままリビングの扉を開けると、そこにはきちんとスーツを身に付けて姿勢正しく座る衣川課長の姿があった。
「き、衣川課長! どうしてここに?」
振り向いた衣川課長は、昨日私が寝落ちする前に見た柔らかい雰囲気ではなく、いつもの仕事中のキリッとした姿だった。
その姿が自宅の茶の間にあることがすごく不思議で、なにも考えずに立ち尽くしてしまう。
「朔乃、挨拶もしないで。それにそんな格好で課長さんの前に!」
母に言われて気がついた。お気に入りとはいえ、部屋着は部屋着だ。シャワーを浴びたばかりで、髪は濡れたままだし、メイクもしていない。
「す、すみません。すぐ着替えてきます」
慌てて階段を駆け上り、部屋へ入るとバタンと扉を閉めた。
どうして、まだいるの? あの後、どういうことになって、衣川課長はとどまったの?
考えても答えなんて出ない。きちんと身なりを整えて、下に降り話しをきかなくてはならない。
とにかく着替えないと。
私はクローゼットを開け放ち、服をみつくろい急いで身なりを整えると深呼吸して階段を降りた。
おそるおそるリビングのドアをあけると、さきほどとそう変わらない格好で衣川課長は湯のみを傾けていた。中身はおそらく河原家の二日酔い対策の梅昆布茶だ。
「あの、すみません。昨日のことあまり覚えていなくて」
頭を下げてとにかく謝った。粗相しているのは間違いないのだからまずはお詫びをするのが正しいと判断した。