社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
「いや、俺こそすまなかった。ついつい長居してしまい結局今朝まで……」
「やだ、課長さん! 引き止めたのは私たちですからお気になさらないでください。それに迷惑をかけたのはこちらですから」
母がつけているのは普段使っているエプロンとは違う華やかなものだ。母くらいの年代でもやっぱりかっこいい人の前ではおしゃれしたいらしい。
父に呼ばれて母がいなくなると、私はもう一度謝ることにした。
「あの、本当にご迷惑をかけてすみませんでした」
先ほどよりも深く頭を下げた私は、自分の膝を見つめていた。
仕事ならまだしも、プライベートでこんな迷惑をかけるなんて思ってもみなかった。情けない。
「もういいから、気にするな。でも悪いと思っているなら付き合って欲しいところがある」
「え……はい。私でよければ」
「じゃあ、早速」
「え? こんなに早い時間からですか?」
「あぁ。悪いがすぐに支度してくれ」
「はい」
私は言われるままに、階段を駆け上り部屋に戻るとすぐにバッグを掴んだ。
扉に手をかけ、ふと姿見をみた。レモンイエローのビジューのついたアンサンブルに、膝でゆれるネイビーのスカート。これなら、衣川課長とでかけてもおかしくないだろう。
扉を開けようとして思いとどまり、バッグからリップを取り出して塗る。
ただの身だしなみだ。だけど、鏡に映った私はどこか浮ついているように見えた。
どこに行くんだろう。行き先も聞いてないのにどうしてこんなに楽しみなのか自分でもわからない。
「朔乃ー! 早くしなさい。課長さんお待ちよ」
「はぁい」