社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~

母に呼ばれて大きな声で返事をした。階段を降りると衣川課長がすでに玄関で靴を履いていた。

「休日まで、お嬢さんを私に付き合わせることになってしまい申し訳ありません」

「いいですよ。休みの日はいつもゴロゴロしてるだけなんで。どんどん連れ回してください」

「ちょっと、お母さん!」

「なによ、本当のことなのにっ」

本当のことだから言わないで欲しいのに、おしゃべりな母親を軽く睨んで諌めた。

「課長さん、よかったらまたいらしてくださいね。お酒準備して待っています」

父までも馴れ馴れしくしているのを見て、私は自分のオープントゥパンプスに足を入れると玄関の扉をあけた。

一刻も早く衣川課長をこの家から連れ出したい。

「それでは、お世話になりました」

「いえ、こちらこそ。今後共朔乃をよろしくお願いします」

「もう、いいから。じゃあ、いってくるね」

歩き出した私に継いで、衣川課長は綺麗に会釈をすると一緒に歩き出した。

時間は朝の九時半。休日の街はまだまだ静かだった。

通勤の時間には近所の噂好きのおばちゃんがいるけれど、休日のこの時間だと姿はなかったことに、少し安心した。

ふたり並んでいつも歩いている坂道を下る。こうやって衣川課長と並んで歩いたことは一度や二度じゃないけれど、今までとはまったく違った感じがした。
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