社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~

思わず突っ込んでしまう。

「そうね、その可能性は低いと私も思う。そうじゃなければ、忘れられない人がいるかね」

ふたつ目の可能性は妙に納得できた。

衣川課長だって、恋のひとつやふたつ当たり前にしてきたはずだ。そしてその中で忘れられないものもあるのかもしれない。

胸がきしむ。あくまで可能性の話なのに、好きな人の心の中に私の知らない誰かが住んでいると思うといたたまれなくなる。

芽生えたばかりの恋だった。けれど相手の思いがわからない今、少しのことで不安になってしまう。

急に黙り込んだ私を、汐里さんは不思議そうに見ていた。私が衣川課長が好きだって気持ちにはまだ気がついていないようだった。

「ねぇ、デザート取りに行こう。私、宣言どおりジェラート全部制覇するから、朔ちゃんも付き合って」

「はい」

思い悩んだところでどうすることもできない。

人を好きになるって、こんな風だったっけ。上がったり、沈んだり。どうにかコントロールしたいと思うけれどうまくできない。

「さぁ、食べるよー!」

元気を取り戻した汐里さんとはうらはらに、私はチクチクと痛む胸を隠して色とりどりのデザートを口にした。
でも、おいしいはずのデザートも昨日衣川課長と食べたパンケーキにはかなわなかった。


衣川課長への恋心が芽生えたからといって、私の心のなか以外はいつもと変わらないように過ぎていく。

相変わらず仕事も忙しく慌ただしく過ごしているけれど、同じ空間に好きな人がいるのはすごく嬉しいことだった。仕事にも前向きになれたし、やる気が湧いてくる。
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