社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
会社の最寄り駅前からバスに揺られること三十分。バスから降りて十分ほどで、両親と一緒に住む私の家がある。
生まれてこの方この家以外に住んだことがない。大学生のときも社会人になってからも私はずっとここに住んでいる。
両親が少々過保護ということもあるが、大学も会社も無理なく通える距離なのでひとり暮らしをすることは考えたこともなかった。
九月も下旬だ。日が落ちると少し肌寒い。
私はバッグからストールを取り出し羽織ると、家路を急いだ。
長い坂道を登りきると、我が家が見えてくる。
「ただいま」
玄関を開けると、飼い犬のミニチュアダックスのチョコが駆けてきた。抱き上げて頬おずりするとぺろぺろと顔を舐められた。いつもの儀式だ。
「おかえりなさい。ごはんチンして食べてね」
リビングを覗くと、すでにお風呂に入った母がドラマを見ながら美顔ローラーを顔にあててコロコロと転がしていた。
隣にいる父は、本を読んでいる途中だったのか、老眼鏡を鼻の頭に乗せてこちらを見ている。
「父さんが、あっためてやろうか?」
普段から母と一緒に家事をこなす父が、声をかけてくれる。