社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
「はぁ」
もう一度ため息をつく。さっきから何度もおなじところをタイプミスしてしまう。残業中で疲れて集中力が足りていないのかもしれないが、目の前の画面が時折霞むような気がする。
ここ最近、残業が続いていた上に色々な仕事をかって出ていた。全部自分のためだから大変だとは思っていなかったが、成瀬さんの言うとおり少し無理をしていたのかもしれない。
「河原さん……ちょっと悪いんだけどこれお願いできる?」
「はい。わかりました」
私を呼んだのは一年後輩の営業二課の若林くんだった。すでに二課の営業事務の合田さんが帰宅してしまっているために、私に声がかかった。
受発注の処理は営業事務の仕事だ。ときどきこうやって二課の急ぎの受注のものをうけることがあったので気軽に引き受けた。
「ここ、やっと俺に心ひらいてくれたところなんです。引き継いでからずっと通ってたんですよ」
「よかったね」
「まぁ、金額はそんなに大きくないですけど。嬉しいです」
そんな会話をしながら、処理を進めていると「あっ。蓮井さん」という若林くんの声があがった。
入り口からまっすぐフロアに向かってくると、貴和子さんは私の前で足を止めた。
「まだ残ってるの? 早く帰らないとダメよ」
「はい」
それ以上会話が続かない。自分でも子供っぽいと思う。
嫉妬で醜い心の中を気づかれたくなくて、話を振った。