社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
「そうだ、成瀬さんの成約祝賀会を有志でやろうって話になってるんですけど、汐里さんもきますよね?」

先日タヌキが言っていた成瀬の契約は、今現在、今季で一番の大口の契約だった。

「もちろんそのつもり。でも有志って言ったって言いだしっぺ深沢部長でしょう?」

営業統括部の深沢部長はこういった社内以外でのコミュニケーションも大事にする人だ。そしてそれを強要するわけではない。けれどその人柄のせいか、こういった会を開くと相当数の人数が集まる。それだけでも深沢部長の人柄のわかるエピソードだ。

「はい『頑張った部下を褒めるのが俺の仕事』って言ってました」

そうだ、本来上司とはそうあるべきなのだ。なのにタヌキときたら……いや、ここで思い出してもランチが不味くなるだけだ。頭からタヌキの顔を追いだした。

すぐに食事が運ばれてきて、嫌な気持ちはどこかにいった。

すっぱすぎない南蛮だれに、野菜がごろごろ入ったタルタルソースが食べ応えが十分だ。おのずと箸がすすみ、大盛りのご飯と一緒に口に運んだ。

「おいしい! 幸せ」

「そうですね」

私の言葉に朔ちゃんが笑みを浮かべて同調してくれる。そんな私たちを貴和子さんは見て笑っていた。

このランチ会が私のオアシス。愚痴を言い合ったり、おいしいご飯を食べて感想を言い合ったり、次の女子会の話をして楽しいことだけが詰まった時間だ。

なのに、私のこの貴重な時間があの男によって破られた。
< 18 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop