社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
胸がぎゅっと絞られたような気がした。いつも言われていることなのに……いつもなら成瀬の背中をバンっと叩いて言い返すのに、今日は「悪かったわね」と返すのがやっとだった。
ここ最近、自分の感情をごまかすのが下手になってきている。なんとか笑みを浮かべたけれど、平気な顔ができているのかわからない。
こんな私の気持ちなんてお構いなしの成瀬は、嬉しそうに運ばれてきた日替わり定食のチキン南蛮をほおばっている。幸せそうな顔がムカつく。
「お前もさっさと食えよ。午後から外回りだろう。時間なくなるぞ」
そう言っていつも私がするように、成瀬が私の背中をバシンと叩いた。
「そ、そんなこと、成瀬に言われなくてもわかってるし」
私はあわてて置いていたお箸を手に持つと、目の前のご飯をほおばった。
しかし、さっきまですごくおいしかったご飯の味がぜんぜんしない。隣では成瀬が目の前のふたり相手に、話をしている。
「午前中に行った企業の女子社員がすごくかわいいんですよ。いつもニコニコ笑顔でさ、滝本ももうちょっと愛想よくすればいいのに」
「私だって、相手が成瀬じゃなければ可愛くしてるわよ。深沢部長とか……」
「は? 深沢部長って結婚してるだろう」
なにを言っても成瀬とは言い合いになってしまう。それが楽しいと思うときもあるのだけれど、今の私にはそれがすごく苦痛だった。