社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
努力もなしにありのままの自分を受け入れてほしいとまで、傲慢なことは思っていないが、努力するなら仕事とか他の方法で認めてもらいたい。
それに彼女がいるのに私が割って入るなんてことは、迷惑極まりないだろう。
そうやっていつもの言い訳を繰り返して、結局は成瀬への思いを胸の奥に沈めるのだけがうまくなってくのだ。
これまでうまくやってきたんだ。これからも、きっとこの気持ちを隠すことができる。
頭の中を整理して、心を落ち着けた。間もなく会社に着くというときに、背後から肩を引かれた。
「おい」
「きゃあ!」
自分でもびっくりするぐらい、甲高い声が出た。
驚いた私の上げた声に、周囲にいた人たちがチラリとこちらを見た。
「ちょ、声がでかい」
「アンタがおどかすからでしょうがっ!」
私の肩を引いたのは成瀬だった。あの定食屋から走ってきたのか、息がすこし上がっている。
「ずっと後ろから呼んでたのに、お前が無視するからだろう。俺なんかすれ違う人からずっと変な目で見られてたんだからな」
「え? ごめん。気が付かなかった」
完全にひとりの世界に入っていた私は、成瀬の呼びかけにも聞こえずにずっと無視をしていたみたいだ。