社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
止めていた足を歩き出した成瀬に合わせて動かす。

「なにかあったのか?」

「え?」

まっすぐ前を向いたままだった成瀬が、私を隣から見下ろす。

「ここのところのお前、なんか変だぞ」

一瞬ドキッとして、成瀬の顔を見た。

「別に、そんなことないよ」

慌てて否定する私を訝し気な顔で見つめてきた。

「いや、絶対おかしい。だってお前が飯を残して席を立つなんてこと、今までなら考えられないからな」

……そこなの?

がっくり肩を落としたが、私を見る成瀬の表情から心配していることがよくわかった。

「ちょっと最近疲れてたから。心配してくれてありがとう」

自分でも素直にお礼が言えたと思う。そんな私の態度に成瀬も驚いて一瞬目を見開いた。

「いや、心配っていうか……お前が元気ないと俺がつまらないだろう。だから、疲れてるならちゃんと早く帰って寝ろよ」

成瀬の長い指が、切りそろえている私の前髪をグシャっとかきまぜた。

触られたのは髪だけだ。なのに鼓動が早くなる。私の中の恋心がふわりと優しい羽で撫でらえたみたいに、くすぐったくて——でも喜んでいるのがわかる。

こんな自分を成瀬が求めていないのはわかっている。同期らしく、ライバルらしくしないと。

色んな感情が入り混じっているのを抑え込んで、成瀬の一歩後ろで彼の背中を見ながら、会社へと戻った。
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