社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
エレベーターホールに到着すると、ちょうど扉が開いたところだった。それにふたりで乗りこむ。

閉じかけた扉が、途中で開いた。外で食事を終えた社員がぞろぞろと乗りこんでくる。

……ちょっと、乗りすぎじゃない? そうは思うけれど、重量オーバーのブザーはまだ鳴らない。そのせいでまだ人が乗りこもうとしていた。

そんなとき隣から成瀬にふっと手を引かれ、そのまま彼の背後に庇われた。エレベーターの隅に、彼によって作らえた空間に守られる。

ずるい……こうやってなんでもないようにして、いつも私の心を揺さぶるんだ。

いつもは女じゃないなんて言う癖に、ふとしたときに、こんな風にしっかり女扱いするんだから。

思わずその広くて男らしい背中に縋り付きたくなる。しかし思いとどまって……でも我慢できずにスーツの裾を軽くつかんだ。

この背中に本来守られるのは、私じゃない。それは彼の彼女の特権なんだから勘違いしちゃいけないんだ。

そう自分に言い聞かせた。それと同時に今だけでもこの背中を独り占めできる幸せをかみしめた。

人が少なくなっていっても、成瀬は営業課のフロアに到着するまで私の前に立ち続けてくれた。私はそれに甘えて、ずっと彼のスーツをつかんだままだった。

あっという間にエレベーターが到着する。目的地が最上階だったらよかったのに。

扉が開いて、成瀬との距離ができる。エレベーターから降りたときに成瀬が始めて私を振り向いた。
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