社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
「遅いなぁ〜」
居酒屋の外でまだ店から出てこない朔ちゃんを待つ。
他のみんなはすでに幹事さんの誘導で、二次会のカラオケに場所を移していた。
「おい、お前まさか帰るつもりじゃないだろうな」
いきなりがっしりと成瀬が肩を組んできた。
うわっ……近いよ。
ドキッとなった胸の高鳴りを、無視して私は悪態をつく。
「もう、重いって」
振りほどこうとすると、余計に体重をかけてきた。だから私は仕方なく……本当に仕方なくそのままでいることにする。
いつもよりも近い距離で話す会話は、すこしアルコールが香るけれど不快じゃない。それよりも話をするたびに耳元かかる熱い吐息の方が問題だ。
成瀬は肩を組んで気がついていないのかもしれないが、私の耳はとっくに真っ赤になっているし、頬だって熱を持っている。
つっこまれたら頑なにお酒のせいにしないと……そんな心配をしていると、バッグの中でスマホが震えた。
「あっ……朔ちゃん」
メールにはすこし飲みすぎたので二次会は不参加だということと、先に帰ってほしいという内容が書いてあった。
心配になって振り返ると、そこには衣川課長が立っていた。
「うわっ! 衣川さん……いつからそこに立っていたんですか?」
私、同様成瀬も驚いたみたいだ。オーバーリアクションかつ大声で驚いて見せた。
普段はもの静かだが存在感がありすぎるので、そこにいるのに気がつかないなんてことはありえない衣川課長なのだが、その場にいるのにぜんぜん気が付かなかった。