社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
目の前にいる天敵ともいえる佐山課長は、難しい顔をしてじっくりと資料をチェックした。

しばらくして、私の顔を一度見てすぐに視線を反らせた。

「ふん。まぁいいんじゃないのか」

やった! 私は心のなかでガッツポーズをする。

しかしそんなことは微塵も出さずに静かに「ありがとうございます」と頭をさげた。

「それで、これ今月の目標の数字に入れてあるが大丈夫なのか?」

「はい、担当者レベルではすでにこの内容でOKがでていますし、入れ替えの権限については担当者がほぼ決定権を握っています」

「今月これ落としたら厳しいぞ。隣の成瀬(なるせ)は、今日すでに契約とってきたみたいだぞ。同期なのにエライ違いだな」

はじまった……嫌味が。必ず何か言わないと死んじゃうの? そう思うけれど我慢した。

佐山課長がさきほど口にした人物——成瀬哲平(てっぺい)は、隣の第一営業部営業第一課に所属している同期で、新人研修のときからの付き合いだ。

仕事ができるのは認める。現に月初めだというのに、今期でもっとも大きな契約を今日決めたようだ。

私だって、負けたくないっていつも思っているのに。

「しっかり頑張れよ」

そして嫌味の最後はいつもお決まりのセリフだ。

「まぁ、女だから期待はしてないけどな」

資料をつき返しながら言われた私は、拳をぐっと握って笑顔を作った。

「では、明日提案してきます」

頭を下げると、すぐにデスクには戻らずにそのまま廊下へと出た。
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