社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
「なんなの、一体! あれ、立派なセクハラだからねっ!」
怒りが収まらずに、ブツブツと文句を言いながらヒールを鳴らしてトイレへと向かう。一度落ち着かなければ大きなミスをしてしまいそうだ。
「あの、タヌキ佐山! ふた言目には、女だからって」
あたりまえだけれど、うちの会社は男女の性差によって優劣をつけることなど無い。しかし、個人レベルでは今も男性を重用する人がいるのも事実だ。
その親玉みたいなのが、私の直属の上司の佐山課長だ。正直タヌキが上司になると聞いた時点で、頭の中にガーンという音が鳴り響いた。
女性の総合職で営業をしている人はそう多くない。それなのに、よりによってタヌキの元に配属されるとは本当についてないと思った。
イライラしながらトイレに駆け込み、一番奥の個室へ入る。
ここは私にとって会社で心を落ち着かせるための、大切な場所だった。
「はぁ……」
座ったまま大きなため息をつき、上を見上げた。いつもの無機質な天井が視界に入る。
いつもの事だってわかっていても、やっぱり気持ちが沈む。
自分でもどうしようもないことでこんな風に扱われるのは理不尽だ。しかも言ったタヌキ本人はそれが悪いことだという認識さえない。
「あの老害!」
王様の耳はロバの耳じゃないけれど、この狭い個室でぽっそりと悪口を呟くとすこしすっきりした。