社内恋愛症候群～イジワル同期の甘い素顔～
「とりえず、ビールでいいかな？」

「はい」

あったかいおしぼりで手を拭き、顔をあげると私を見つめる安藤さんと目が合った。

その視線に特別な意味を感じてしまい、慌てて視線をそらした。

「どれもおいしそうですね」

メニューを見ながら、話題を探す。本当はすぐに、商品の話がしたかったけれどそれでは無粋というものだ。今日は食事に付き合う約束をしているのだから、最低でも乾杯までは仕事の話を控えるべきだろう。

瓶ビールが運ばれてきたので、それをすぐに手に取って安藤さんのグラスに注いだ。適度に泡がたちうまく注ぐことができ、自分のグラスに注ごうとすると安藤さんが手を伸ばしてきた。

「滝本さんのは、私が注ぎましょう」

瓶ビールを私の手から取るときに、手が触れる。その撫でるような動きに、ゾクリと鳥肌がたった。

「どうぞ」

いつもと変わらない様子でビール瓶を差し出された私は「すみません」といいながらグラスを持ち上げた。

きっと私の気のせいだ。ちょっと苦手な相手だからってすこしばかり過剰反応し過ぎなのかもしれない。

「ありがとうございます」

無理矢理笑顔を浮かべて、気を取りなおした。
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