フラワーガーデンへようこそ〜優しい愛をあなたに〜
静かにかすみの前に来た悠人だったが、かすみの腕をギュッと掴むと、自分のほうに引き寄せ、強引に唇を奪った。

「ぃ、や!」

何とか抵抗して離れたかすみの目から、幾度も涙が零れ落ちていく。

「…かすみ!」

かすみは、カバンを掴むと、オフィスを飛び出した。

そして、駅まで泣きながら走っていく。幸いだったのは、その間、人に出会わなかったこと。

と、思ったのもつかの間。

クラクションの音が、かすみを止めた。

「…かすみさん」

今、この人には会いたくなかった。かすみは気づかなかったように行こうとしたが、腕を掴まれてしまった。

…薫は、突然の客の呼び出しで出ていた帰りだった。

かすみは、薫の方にふりかえれない。…まだ、涙が止まらないから。

「…どうしたんですか?…泣いてる?」
「…」

「…何があったんですか?」
「…何、も」

震えた声で、何とか答えを返した。

「…とりあえず、うちに来ませんか?」
「…いえ…電車がなくなりそうなので」

「…そんな顔で、電車に乗れないでしょう?」

…薫の言う事は、最もだった。涙を何度も拭ったせいで、化粧は崩れてしまっている。終電に近い電車で、人は少ないにしても、この顔で乗るのはいかがなものか。

「…とにかく落ち着きましょう…ね?」

優しい薫の言葉に、かすみは小さく頷いた。
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