バウンス・ベイビー!


「たまにはインスタントでもいいんじゃないですか、前園さん」

 私がそういうと、前園さんは済ました顔でこう言った。

「ダメなの、千明ちゃん。うち、週に3回はインスタントだから」

 和やかに笑い声で本日は終わっていく。時間通りに全ての業務は終了し、今日だけは残業しねーぞ、と決心したらしい高峰リーダーも、皆と一緒に作業場を出る。

「うわ~・・・。凄いですね。吹雪っていってもいいんじゃないかな、これ」

 雪はまだ積もってはいなかったけれど、傘がないと大変そうな降り方ではあった。

「気をつけて下さい~!」

 情けない顔で空を見上げる田内さんにそういって皆で見送る。それから解散した。

 電車にのって、スーパーに寄り道をして、一度家に帰ってから、お風呂の用意をして銭湯へと行く。雪がしんしんと降っていて町は静かで、どこか違う町に来たようだった。

 暗い中、静かに一人で歩いていると、その寒さから急に一人身なんだと思うことがあった。

 私にはもう随分と、好きな人がいない・・・。それに、一緒に居たいと思うような人も。大学の間や社会人になりたてのころは滅多に思わなかったそんな気持ちが、今年になってからはちょくちょく思い浮かぶようになっていた。

 きっと会社に慣れたせい。

 それとも、一人暮らしが寂しいせい。


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