バウンス・ベイビー!
そう思っていたけれど、平野が突然目の前に現れたときから、そんな気持ちはまたすっかり忘れてしまっていた。バタバタと勝手に気持ちが忙しくて、怒ったりパニくったりで寂しさを感じる暇がなかったのかも。
抱きしめられて、キスをして。
だけど別に恋人でもなくて、平野の考えも判らないまま。
息が白くなって暗い空へ上がっていく。指で唇に触れて、私は一瞬泣きそうになってしまった。
好きでもない女とあんなキスをして・・・平野は平気なのかな。私はすごく動揺して、まだ頭から離れないけれど、ヤツの普通な態度を見ていたら私にキスしたことなんて忘れてしまっているように思えてくる。
ってか忘れてるのかも。ヤツにとっては何でもないことなのかも。勝手に意識して馬鹿みたいに悩んでいるのは私だけなのかも!
「・・・くそ」
もしそうだったら悔しさで死ねる。そう心底思ってしまった。
銭湯が見えて、出てきた人とすれ違う。それを避けながらハッとして、私は歩きながらブンブンと頭を振った。
ダメ、忘れるの。あれはなかった。それこそただの通りすがりにぶつかっただけ、そんなところよ!電信柱にぶつかったからちゅーしてしまった、そんな程度なの!
「もう!」
頭を振り続けたままで銭湯の暖簾をくぐり、番頭さんに変な顔をされてしまった。