バウンス・ベイビー!
メガネの奥で高峰さんの切れ長の目が細められる。私はまた無意識にバットを握り締めてしまう。だけど追求するのはやめることにしたらしい。リーダーは、はあ、と一度ため息をついて、平野についてこいと合図をする。
そして二人で行ってしまった。奥の倉庫へ。
パートさん二人が、去年よりまともそうね、と話しているのが遠くのほうから聞こえてくる。ちょっと可愛いじゃない?などという声も。
・・・・・あああああ~・・・・・。なんてことだ!
その姿を見送ったあと、私は力が抜けてへなへなになってしまったのだった。パートさん達にはばれていなかったけれど、田内さんとはばっちり目が合ってしまった。大丈夫?という風に首を傾げられたので二へっと笑って頷いておく。
大丈夫ではない!全然ちっともま~ったく大丈夫なんかではないのだ!だけど、それを悟られるのは勘弁願いたい。
フラフラと自分の作業台へ戻って、目の前に山と積まれているせせりのビニール袋を眺めて気が遠くなった。
・・・・何で・・・よりによって、あいつがここに・・・。
平野啓二。すらりとした細身の体。頭一個分上から見下ろすあの目も、あの表情も、あのちょっとかすれた声も、全く変わっていない。確かに同じ高校だった。そして卒業と同時に関係のない人になった。何故か彼は今だに大学生らしいけれど、そんなことは問題ではない。問題なのは、やつが辞める残りの期間、私の心臓が無事かどうかって話なのだ。約半年も!
喜怒哀楽の全てを彼で体験したと言っても過言ではない。
私の高校3年間はあの男で始まり、そしてあの男で終わったのだ。