バウンス・ベイビー!


 相沢さんはまだしばらく考えるような顔をしていたけれど、その内一人で頷いて、足を止める。

「言っておかなきゃと思って」

「はい」

「この話は凄く君に失礼になると思うけど―――――――俺ね、秋に彼女と別れたばかりなんだ」

 私は体を彼に向ける。ああ、真剣な話なんだな、と思ったからだった。だけど通行人がたくさんいる道の真ん中ではどうかなと思って、相沢さんに日当たりのいいベンチを指差してみせた。

「あ、そうだよね。ごめん」

 彼は緊張しているらしい。それが判って、私も興奮がさめてきた。ええーっと・・・どうしたらいいんだろ。でも仕方がない。とにかく彼の話を聞くべきだよね、そう思ってベンチへ座る。

「それは仁美に聞きましたよ」

 言い出したくせに中々口を開かないので、私からそういって促す。相沢さんは頷いた。

「・・・4年付き合っていた彼女で・・・彼女の方が仕事で地方へ転勤になったんだ。それで俺はそれに反対した。側に居て欲しかったからなんだけど、彼女は仕事をとても大切にしていて、それで喧嘩になって・・・話がこじれて、結局別れ話になったんだ」

 私は頷いた。

 相沢さんはまた口を閉じてしまった。だけど一瞬苦しそうな顔をして、ため息をつく。今日会ってから、そんな顔をしたのは初めてだった。

「―――――でもやっぱり、彼女を忘れられなくて」

 ・・・ははあ!

 私は理解して、つい両手を叩きそうになってしまった。それから苦しそうな顔をしている相沢さんの肩をポンポンと叩く。友達みたいに。


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