バウンス・ベイビー!


 鉄のドアを挟んで、向こう側で平野が黙った。その間が気になって、私は一人ぐるぐると色んなことを頭の中で考える。平野、帰っちゃったかな・・・?

 ドアを開けようか、そう思った時、平野の声が聞こえた。

「食べ物・・・買ってきたんだけど、必要ないか?」

 ぐうう~。タイムリーにお腹が鳴って、私は頭をドアへと打ちつけた。・・・まさか、聞こえてないでしょうね、今の。やめてよそんな恥かしい!

 だけど、もう限界だった。食べ物の一言に大いに釣られてしまった私は、ついにドアを開けたのだ。

 ゆっくりとあけたドアの向こう、雪降り込むアパートの廊下で寒そうな顔をした平野が、スーパーの大きな袋を持って立っていた。

「・・・熱は下がったのか?」

 灰色の雪に降られながらそう聞いた平野の顔が、一瞬、高校生の時好きだった表情と重なった。

「――――――」

 私は言葉をなくして立ちすくむ。

 ・・・そうか、この人は、本当に、あの男の子なんだな。

 何度もあった春も夏も秋も冬も、ずっと追いかけてみていたあの男の子と、同じ人なんだなって。

「藤?」

 平野が首を傾げる。私はハッとして、ようやく体を引いて玄関へと通した。

「あ、ごめんね、寒いよね」

 申し訳なさが先に立って通したけれど、平野が振り返ってこう聞いた時に後悔した。

「誰もいないのか?」

 ・・・あうち!そうだよ、私!寝起きの一人暮らしの部屋に、何で人を通しちゃうかな!?だけど今更出て行けとは言えない。・・・とにかく、食料を貰うまでは。


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