バウンス・ベイビー!
「え?」
くるりと振り返ると、平野は自分の手許をじっと見ている。せせりについた油の塊が邪魔で難儀しているらしい。包丁の先に脂身が絡まって、どうにも出来なくなっているようだった。
「あ、それは切り取るの。美味しいんだけど、それがつきすぎると肉の量が減っちゃうから」
かして、と私は彼の包丁を手に取る。その時、包丁を離してふらついた平野の手が、私の手にぶつかった。
その瞬間、ビビっと体に電流が走って、私の体は大いなる過剰反応をした。だって緊張と混乱でガチガチになって凍り付いている体に、いきなり熱された鉄の棒を突き刺したような状態なんだよ!
「あ!」
ぴりっとしたのは一瞬のこと。
手が触れたことに動揺しまくった私の包丁をもつ右手は勝手に動き、肉を持っていた左手の人差し指の上をかすめる。痛みがした箇所は少しだが血が出て、つい声を出してしまった。
ありゃ~・・・指を切っちゃった~。
私はパッと包丁を離して、切った指を肉から遠ざける。ついでに自分も平野から遠ざかった。
「どうした、藤?」
高峰リーダーがこっちに声をかける。声に気がついたらしい。
「大丈夫です、ちょっと包丁かすって指を切ってしまいました」
そう言いながら傷の深さを見ていると、隣からヒョイと平野の片手が飛んできた。
「俺のせいだな、悪い。でもこのくらいだったら舐めとけば――――――」
そういって私の指を引っ張り、自分の口元に寄せようとする。
あ、ダメ―――――そう思うのと、リーダーの罵声が聞こえたのが同時だった。