バウンス・ベイビー!
髪の毛をゆるめにまとめて帽子でとめ、エプロンを着て鏡で最後のチェックをする。それから各種包丁が入った木箱を持って、私も作業場へと出て行った。
新年から苦虫を噛み潰したような顔してるわよ、どうしたの、リーダー、と前園さんに聞かれたけれど、私は答えることなど出来ない。だからへらっと笑っておいた。
「千明ちゃん珍しい、今日はお化粧してるのね!」
「やっぱり初出だから気合入れたの?そういえば風邪は大丈夫?」
パートさん達が次々に聞いてくれる質問が、一々耳に突き刺さって痛い。私はほうほうの体でさっさと逃げ出した。
平野が出勤してきたとき、高峰リーダーの視線はかなりきつかったけれど、上手に普通に接していた。私はそれを見て、さすが大人だなあ~と安心する。これがオンとオフの切り替えってことなのかな。それに平野も私に特に親しげな態度は見せなかったのだ。会った視線は柔らかかったけれど、それ以外は見事に今まで通りの平野で、無言で、黙々と作業をしていた。だからリーダー以外のメンバーには、誰にも気づかれなかったと思う。平野と私がカップルになったってことを。
あまりにもヤツが普通なので、私でさえもあれは夢だったのではないか、と思ったほどだ。
・・・ああ、やれやれ。
気詰まりで死ぬかと思ったけれど、これだったら大丈夫。そう思って私の緊張が取れたのは、もう昼も近くなってからだった。