バウンス・ベイビー!


「すごく大人の対応だって思ったよ!本当に私のことを好きならきっと、毎日がかなり不愉快だろうって思うけど、普通に接してくれてるもの。それより平野はどうなの?!昨日の飲み会で、聞いたんだよ、平野が高校の時―――――――わ、私を好きだったって」

「――――吉田か」

 うんざりしたような声だった。

 予想していた、といったようなその声に、私は更に逆上する。

「本当なの!?それってホントのことなんだ!?だったら何であんな振り方したの?お陰で私は―――――――」

「藤」

 平野が言った。

「声、大きい。通行人が皆聞いてるぞ」

 まだ夜の7時すぎだ。冷えた公園は駅前にあり、通勤客が通ることもある。だけど私はそれがどうしたって思っていた。誰に聞かれたって構わない、なんなら駅前でもホームでも大きな声で言ってやる。大絶叫で叫んでやる。

 逆上した体は熱く、握り締めていた手の平に爪が食い込んでいる。

 私は怒りに震えて平野に向かって叫んだ。
 
「答えてよ!」

 どうして私を振ったの。

 どうしてあんな言い方をしたの。

 好きだったのなら、どうしてどうしてどうして―――――――――


 平野は眉間に皺を寄せて、目も細めていた。外灯に照らされてそれがハッキリと見えた。その顔はまるであの2月の雪の日みたいだった。厳しくて、苦しそうな顔。

 平野はぐっと引き結んでいた口をあけて、掠れてザラザラした声で言った。

「―――――今は言いたくない」



< 235 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop