バウンス・ベイビー!
ついに涙が落ちた。私は下をむいてそれを隠す。泣きたくない。今は、この人の前で涙を見せたくない。
「藤」
平野がそう呼びかけたとき、私は鞄と拳を握り締めて、下を向いたままで口を開いた。
「―――――ダメ。今日は、ダメ。腹が立って暴れだしそうな気がするから、帰る」
しばらく間があったあとに、頭の上で、送る、と彼の声が聞こえたけれど、私は乱暴に首を振った。
「いいの。混乱してるから、落ち着いて一人で考えたい。先に帰って」
見事な鼻声だ。こんな時なのに、格好つけることも出来ない。ああ情けない。
「・・・ここで残るのはダメだ。なら、俺があとから帰るから藤が先に電車乗れよ」
胸が痛くて寂しかった。私は彼を見ないままで頷くと、下を向いたままで歩き出した。後ろからの足音は聞こえなかったし、ホームに上がって見回しても平野の姿はなかった。
ティッシュで鼻をかんでマフラーに顔を埋める。
その状態で部屋へと戻り、私は準備をして銭湯へと向かった。
そして誰もいないサウナの中で、汗と涙が枯れるまで座っていた。