バウンス・ベイビー!
恥かしすぎて、職場に戻れるかどうかが謎だ。
あの男の元へ。それと、ちょっと面白そうな顔をしていた、リーダーの所へ。
だってきっと戻ったら、田内さんやパートさん達まであの過去を知っていそうなのだ。一体どういう顔で働けというのだろうか!?
だけど私はゆっくりと戻ったのだ。食いしばりすぎて痛む顎を抱えて、鬼の形相をして。
高峰リーダーはやっぱり意地悪そうな顔をして私を見たけれど、私のあまりに怒り狂った顔をみて、不要なセリフは吐くべきではない、と判断したらしい。さすが大人だ。的確な判断。
そして爆弾発言をして私を一気に窮地に追い詰めた問題の男、平野は平然とした顔で帽子を被りつつ待っていたから、私は最大限感情を抑えた声で午後の研修をスタートさせた。
負けないぞ。ここは私の職場なんだ!半年やそこら居るだけの男になんか、絶対負けないぞ!
「お待たせしました。じゃあ、始めます」
低い声で淡々とそう言うと、周囲の物音が一瞬止んだ。
平野もじっと私を見ているのがわかった。
「・・・藤。あの」
「黙って」
ぴしゃりとそう言って、私は手を洗い、消毒をして、包丁の切れを確かめる。それから冷蔵庫から大きなビニール袋を取り出して、それを作業台にドンと置いた。
「これはハート。つまり、心臓ですね。上の脂身のところは切り落として下さい。それから横に向けると月型になっているのが判ります?ここに包丁をいれて――――――」
どんどん進んで行った。相手が着いてきているかは確認しなかった。