バウンス・ベイビー!
「おはよ」
エプロンと帽子を装着した平野がそう言いながら作業台へ来た。こっちを見ては居ないけど、私にむかっての挨拶だって判った。
あ、挨拶はしてくれるんだ!?よし、頑張れ私!そう心の中で言い聞かせて、私も返事をする。あまりそっけなくならないように、でも慣れ慣れしすぎないように~!だってここは作業場だもの!ああ、按配が難しいわ!
そんな私にお構いなく、平野はいつものように包丁の切れを確かめると、さっさと肉をとりにいってしまう。普通だ・・・。すごいなあの男。私は呆れると同時に感心した。
一応付き合っているはずの彼女と言い争いをして泣かせ、それから音信普通で過ごして、最初に顔をあわせたというのに、どうしてあんなに何もありませんでしたーみたいな態度が出来るのだろうか!まあニコニコ顔で覗き込まれても困るんだけど。でもあんなに普通ってあり?あんた私を無視してたんじゃなかったの?
巨大なクエスチョンマークを空高く打ち上げたい。
駄菓子菓子、私にとってもそれは都合がいいはずだ!私はこっそりと深呼吸をする。
とにかく仕事を終わらせること。そして、無事に平野がここを出る時間になったら、ちゃんと話をしよう、って。
作業中は、明るい浜口さんと喋りながら時間を過ごした。
昼食の時、一緒に外へ出た浜口さんが、キラキラと瞳を輝かせて、千明ちゃん、そういえば小説の完結おめでとう!って小さな声で言ってくれた。
「ありがとうございます」