バウンス・ベイビー!
心臓を切り開き、血のたまりを取る。手が真っ赤に染まってぬるぬると光る。いつもは若干ブルーになるその瞬間も、今日の私は大丈夫だった。
心を強くもつのよ、千明!
私は過去の亡霊には負けないんだから。もう平野なんて完全に過去なんだから。あんなに辛い思いだって、もうしないんだから―――――――――
結局その日は一日中、私は平坦な声で鶏肉の各部位の開き方と串の刺し方を教え、やっぱりちっとも返事をしないままの平野はそれを黙って覚えていった。
午後7時、終業時間には、ヤツはかなり疲れていたらしい。ぐったりと壁にもたれかかり、帰るパートさん達に労を労われている。
「お疲れ様です」
先に田内さんが退社した。
高峰リーダーが平野を褒め称えるのを背中に聞きながら、私も家へとすっとんで帰った。
この悲惨な一日を、何とか忘れたかったのだ。
それには、小説世界へ逃げるしかないと判っていた。
私の世界へこもること。
こんな日には、あれがまるで優しく私を包み込む繭のようにも感じられる。
作品に没頭するのよ、千明!それが一番素敵な逃避の仕方――――――・・・・・・