バウンス・ベイビー!
風がだんだんと温かくなり、土の匂いがしてくる春。
夕暮れの桜並木の歩道を、向こうから平野が歩いてくる。
身につけた新しいスーツ、黒い鞄、それに光る革靴。
「お待たせ」
短くなった平野の髪が見慣れなくて、私はちょっと眩しい思いで彼を見上げた。朝には整えてあったらしいそれは、今や春の強風でかき回されているけれど。
「どうだった、入社式は?」
風が通って桜並木を揺らし、夕暮れのオレンジの光の中、ヒラヒラと桜の花びらが降って来る。その中で、穏やかな顔で笑う平野が言った。
「んー・・・退屈だった。もう早く終わらないかなってそればかり思って」
「あはは、そうだろうね。入社式ってどうしているんだろ。偉いさんの訓示とかあるんでしょ?」
平野が就職したのは大企業ではないけれどそこそこの規模の会社で、新卒の人数も50人はいると聞いている。つまり同期が50人もいるってことで、それはちょっと羨ましかった。
だって私は今度は4年目になるのに、まだ一番の新人なのだ!我が社には今年も新卒は入らなかった。
平野がうんと頷いてから、あの掠れた声で言う。
「早く藤に会いたかったし」
きゃあ。
私は照れ隠しに風のせいにして、髪で顔を隠した。