バウンス・ベイビー!


「行こうよ、お腹空いちゃった」

 そう言って促すと、はいはいと平野も歩き出した。

 川沿いに続く桜並木、ここで待ち合わせしたのは気温もよく、夕日が綺麗に見られることに加え、私の部屋と平野の会社の最寄の駅とのほぼ真ん中にあったからだ。今日は私が休みの平日で、平野は入社式だった。彼の仕事が終わるのを待ってご飯を食べにいこうって誘ったのだ。

 川風が吹き通り、もう温かくなってきつつある空気をかき回す。時折ぶわっと吹いては桜の花びらを夕焼けの空へと舞い上がらせる。

 キラキラと薄ピンクに光る花びらが、赤やオレンジや黄色や紫に染められた空に舞う。それはとても美しく、繊細で、目を見張る景色だった。

 春という季節を美しく感じて空を見上げたのなんて、すごく久しぶりだ。6年前の春から、私には春は辛いことを思い出す季節だったから。

 だけど今は、こんなに素敵。

「ほら見て、綺麗だよ~!すごいねえ、桜が空を埋めちゃってるよー」

 そう言って私が空を指差すと、同じように顔を上へ向けながら、平野がぽつりと言った。

「・・・ようやく学生も終わりだな」

 私は振り返って笑う。

「そうだねー。これからは厳しい社会人だよ~!ウェルカムウェルカム!」

 両手でジェスチャーをしながらふざけて言うと、平野は少し黙ったあとで、ぼそっと呟いた。

「・・・厳しくても、これのがいい」

「うんー?」

 風が強くてイマイチ聞こえず、私は聞きかえす。何だって?今君、何て言った?



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