バウンス・ベイビー!


 平野がいればすっとんでいって、よく話しかけ、よく笑いかけた。多少引きつっていたかもしれないが、私から告白されたわけでもない平野も邪険には出来なかったようで、普通に接してくれた。話しかけたら返してくれるし、馴れ馴れしくすることも避けることもしなかった。

 それが有難かった。

 お陰で私の平野好きとアプローチは有名になったけれど、からかいはすぐになくなったし、好意的に見てくれる人まで出てきたのだから。

 担任にも言われるほどだった。

『藤、若いって素晴らしいな。お前その素直な気持ちを大事にしろよー』

 って。担任だった男性教諭はそういいながら、眩しそうな顔をしていた。

 実際の私が、毎晩布団の中で緊張でガチガチになった体を更にかたくして不安と戦っていたことは、誰も知らないのだ。

 公開恋愛などしたくなかった。本当は泣きたいほど恥かしかった。

 だけど、それで智美や平野や、多分私だって、救われたのだ。だからそれは後悔していない。

 それにちゃんと、というか、どっぷりと、私は平野が好きだった。

 そっけなくてもちゃんと返事をしてくれるところも。あのちょっと掠れた声も。前髪が長くなって邪魔になり、しかめっ面をするところも。見ればそれでハッピーになれるくらいに、好きになってしまっていた。

 視界の中にあの男の子がいることが普通になり、ないときには寂しくてわざわざ探す。その時からよくしていた妄想の相手は、勿論平野がオール出演だった。

 普通の男子なら、つぶれちゃうかもしれないその状況で、彼は普通に接してくれたのだ。有難いって思っていたんだった。その態度に敬意を覚えてすらいた。

 そしてそれは、3年生の冬まで続いた。


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