バウンス・ベイビー!
無言で頷いた。そろそろ7日目になるけれど、平野は相変わらず返事がない。だけど、こっちを変に刺激してくることもなかったから、私はようやく慣れつつあった。さっきみたいに小説の世界へと入ってしまっている時には忘れることが出来るくらいに。
昔好きだった男と24歳になってから再会したからって、また好きになるとは限らない。だってそもそも、私は平野にこっぴどい失恋をしたのだから。こっぴどいけれど、ハッキリとして潔いくらいだった断りを受けたのだから。高校3年生が終わる、あの2月に。
あれが原因で、私の心臓は確実に防弾ガラスをまとうようになった。天真爛漫に人を好きになることなど、もう出来ないのではないか、と思うようになった。
実際、次にすすんだ大学生活では、恋愛話など私には一度も降りかからなかったのだ。
私は一瞬過去の亡霊に捉われて、包丁をとめてしまう。
頭の中に思い浮かんだその映像はハッキリとくっきりと浮かびあがり、なかなか消えそうにない。
2月で、受験が終わった組はもう学校には来ておらず、まだ受験が残っている組だけが登校していたあの時期。あの冷たい空気、ぴりっとした教室の雰囲気、硬い表情の先生達。そんなものが一緒になって瞼の裏を駆け抜けていく。
追いかけ続けた男の子は、あっさりと私の申し出を断った。それも、絶対忘れられないような強烈な一言つきで。
勝手にとはいえ十分盛り上がっていた分だけ、その衝撃は酷かった。
平野は嫌っちゅーほどに私の気持ちはわかっていたはずで、だけど彼は避けるようなことを一度もしなかったから、公開恋愛を宣言して2年が経つかもってあのころ、ほぼ公認のカップルって状態だと思っていた。