バウンス・ベイビー!
そんなわけでお風呂の準備も。最寄の銭湯にはシャンプーや石鹸などは置いていないので、小さなセットになっているパックを取り出してタオルや下着と一緒にいれる。これで良し。
さらさらと初秋の風が吹く中、私は3つ向こうの駅の職場へと向かう。
まだ紅葉には早く、比較的温かい気温で人々が気楽な顔をして歩いている。平日に休みだとこういう瞬間に、ちょっとラッキーな気分が味わえるのだ。平日だけど私は休みなんだよーん、という優越感。それは勿論、土日祝日に出勤の時には僻みにとって変わる感情なのだけれど。
さっきまで書いていた小説を頭の中で蘇らせる。
ちゃんと高峰リーダーをモデルにしたキャラも登場させたのが。ちなみにそのキャラの名前は高峰からずれて高見にしておいた。主人公の美春が駅で彼と出会って、困惑するシーン。隼人はいないし、美春は大人しい性格だしで、どうしたら違和感がない流れに出来るかどうかでえらく悩んだものだった。
だけどとにかくこれで次の展開にいけるのだ。高見が現れたことで隼人に変化が起きる。そしてそれが原因で美春が―――――――――
その時電車が止まり、見慣れた風景にはっとして、急いで電車を降りる。
危ない危ない、乗り越してしまうところだった。私は誰もいないのにいいわけするよう一人で頷いて、改札口まで飛んでいく。
「さて、と」
駅から職場までは、徒歩で10分ほどだ。
「お疲れ様でーす」
私はそう言って作業場の引き戸を開ける。ドアを開けたらすぐそこは土間仕様の作業場で、今日は私と前園さん以外の全員が出勤の日だ。だけど問題の平野の姿は見えず、ほかの皆自分の作業台でいつものように手を忙しく動かしている。