バウンス・ベイビー!
「おう、来たな」
高峰リーダーが奥の作業台から手をあげて、おいでおいでをした。それから先にたって事務所へと向かう。私は北浦さんと田内さんに会釈をして挨拶をし、久しぶりに見た浜口さんに声をかける。
「浜口さん!大丈夫ですか、腰の方は?」
「千明ちゃん、久しぶり~」
パートの浜口さんはニコニコと笑って私を見る。
「痛かったわ~、腰!でも毎日鍼灸に通ったら歩けるようにまでなったのよ~。針ってすごいわよねえ!」
「そうなんですよね。あれは東洋の神秘だと思います」
新人の時に作業場に入ってきた時から、浜口さんは私に大層優しくしてくれたのだ。ぶっきらぼうで口の悪い上司と穏やかだけどいるのかいないのかよく判らないほど無口な田内さんとしか同じ場所で働く社員がいない中、右も左も判らずにオロオロする私を優しく導いてくれたのはこの浜口さん。聞くところによると私と同じ年の娘がいるらしく、他人事と思えなかったんだそうだ。
まだ新入社員の頃、外にお昼を食べ行ったことがあって、その時に何気ない会話から、お互い読書が趣味であることがわかった。
その時に浜口さんが、実は今ね、私、インターネットの小説にはまってるの!と目をキラキラさせながら言ったのだ。その時の私はまだネット小説という世界を知らなくて、へえと思ったんだった。そんなのがあるんだ、って。今私が作品を書いているサイトも、浜口さんが教えてくれたもの。浜口さんは自分の好きな書き手さんの小説を紹介してくれて、二人できゃあきゃあ言いながら感想を話しあったりしたものだった。
だから、私が作品を書き出したときも、浜口さんだけにはそっと伝えた。
『話を書き出したんです、私も』って。