バウンス・ベイビー!


 暗い廊下。でもドアの形はハッキリとわかる。そして――――――――そこの前に立つ、人型の影も。

「・・・」

 あああああ~・・・・まさしく今着いたところ!?そうなの!?コンクリートの壁に頭を打ち付けたい。一瞬本気でそう思って、いやいやと自分の額を叩いた。

 それから大きなため息。

 お風呂上りでこれ以上冷えるのはよくない。それに、人影はドアを背にして立っているらしいし、ということは、私を待っているのだろう。泣きたいけど泣いてる場合じゃない。覚悟を決めていくのよ、千明!

 私は鞄二つを握り締めて、ゆっくりと足を踏み出した。

 コツンと靴の音がして、それに気がついたらしい。ドアの前の人影がドアから身を起こした。

「・・・藤?」

 その声は紛れもなく平野だった。

「・・・そう」

 がっくりと肩を落として私は自分の部屋へとずんずん歩く。もうさっさと明細を貰って、帰って頂こう。そう思って。

 ドアの前まで来ると、リュックを背負った姿の平野がいた。エプロンと帽子姿でないヤツを見るのは久しぶりだ。私は一瞬だけ目をあわせて、あとはパッと視線を外す。

「明細もってきてくれたんだってね、リーダーに聞いた。あの、ありがとう」

 ぶすっとそう言って手を出す。ここに置いてくれ。そしてさっさと帰ってくれ。その意思表示で。

 だけど平野はそのままの体勢で、いいにくそうに口を開く。

「悪いんだけどさ、トイレ貸してくれないか?冷えてしまって、その・・・近い」


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