バウンス・ベイビー!

 本日の業務が終わった午後7時、高峰リーダーが難しい顔で机の前に座り込んで、うんうん唸っている。

「藤、休み返上って喜ぶタイプ?」

 鉛筆を放り投げて私を見たリーダーが、いきなりそんなことを言ったのでキッパリと首を振った。

「いえ!有休も全部消化したいタイプです!」

「だよな、知ってる」

 またうーんと悩みこみながら、リーダーは頭をかき回した。

 作業する上で必要な白い帽子を脱いだ高峰リーダーは、色素の薄い黒髪が襟足のところまでのびている。前髪も伸びてメガネにかかり、帽子を被っている時とはえらく雰囲気が違っていた。去年だったかに髪伸びるの早いですねーと話をしたら、仕事中は帽子を被るし休日は引きこもってるから切るのを忘れるのだ、と返答があったことを思い出した。

 今も髪を切りにいけてはいないらしい。

 ・・・いや、時間がないのではなくて、面倒くさがりなだけかも。

 私がそんなことをつらつら考えている間にも、リーダーはシフト表を前に唸っていた。

「そりゃ勿論田内も休み返上は嫌だろうなあ~。俺だって嫌だし。金くれても嫌だよな、やっぱり。だってそれでなくても繁忙期だしな。でも浜口さんの穴はでかいよなーどうするかなー・・・」

 ぎっくり腰になってしまった浜口さんがいつ復帰できるかわからないし、そもそもこの時期は毎年期間契約のバイトを雇っているのだ。今年は熟練のパートさんが3名もいるし、全員体制でのぞめば大丈夫とリーダーは思っていたらしいけれど、その計画はあっさりと壊れてしまったわけで。


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